大スターは三日待たせて台本無視

大スターは三日待たせて台本無視

急に観たくなって、「座頭市」のビデオを借りてきた。これには俺も子役で出ている。
勝さんのわがままぶりを身をもって体験させられた一作だった。何しろ、勝さん全然撮影
に来ないんだもの。
撮影の日、俺は朝八時頃から現場に入って、カツラかぶって衣裳着て、メイクもして控
え室で待ってた。しばらくして、「オーナー(勝さん)が来ないから、昼飯喰ってくれ
る?」とスタッフが言いに来た。「分かりました」と言って昼飯を喰って、午後もまた待
ち続けた。ほけーっとしたり、台詞を確認したりする以外、何もすることがない。
またしばらくして、スタッフが「晩飯喰って下さい」と言いに来た。晩飯喰った後も少
し待って、結局、その日の撮影は中止。「なんでだ?」と思ったら、勝さんは気分が乗ら
ないと来ないんだということを、スタッフが教えてくれた。
翌日も同じように過ぎた。
そして四日目。昼飯を喰い終わって、「一体いつになったら勝さんの気分がよくなるん
だろう。もしかして、永遠に気分がよくならないんじゃないだろうか」と思い始めた頃、
勝さんがやっと来た。そこで俺に言った一言が、「坊主、待ったか?」。
「当たり前じゃねえか。こいつ、殺したろか」と思ったけど口には出せない。
そしていよいよ撮影開始。何しろ三日間練習してたんだから、台詞は完壁だ。ところが、

自信満々で台詞を言おうと口を聞いたら、勝さんがまた一言。
「こんな台本は見なくていい」
そして、お前はここでこう言えって、その場で指示し始めたんだ。俺の三日間は一体何
だったんだ!って思ったね。
主役をはれる役者にならなきゃダメなんだと思ったのも、この時だった。この世界は、
売れてなんぼ。売れない奴は名前も呼んでもらえない。「おい」とか「お前」ですまされ
てしまう。撮影の順番にしてもそうだ。主役はすぐ撮ってくれるけど、脇役はどんどん後
回し。
こういう体質自体は、昔も今も変わらない。でも、今では、勝さんみたいな豪放一指落な
人は少なくなった。松方のお兄ちゃんみたいに、スタッフ全員呑みに連れていって、一晩
で二百万、三百万使っちゃうような人も少なくなった。世の中全般がそうなのか、みんな、
なんとなく真ん中へんにこぢんまりまとまっちゃってる。スタ!と一般人の違いが全然な
くなって、今テレビに出ている人でスタlらしい人なんて、ほとんどいない。
そういうフツlの人が、それなりのところで作ってすませちゃっているのが、今の映画
やドラマだ。商業ベlスで、とにかく売れるもの、儲かるものをっていう作り方ばかりに
なってしまった。昔を懐かしんで今を批判するつもりはないけど、やっぱり寂しい気がす

る。そういえば、今日は勝さんの命日だ。

 

脇役